サルトルとボーヴォアール、
ピカソとジャクリーヌ、
ジョン・レノンとオノ ヨウコ…
そこには、宿命という男と女の物語がある。
画家・中本 誠司さんとそのパートナー大内 光子さんも宿命的なカップルだった。
大内 光子 著「野人、中本 誠司。」
を拝読した。
大内 光子さんのことを”聖 女”と呼ぶ男性陣の声も聞いたことがあるが、私は、あまりそう感じていなかった。
私は、もっと切実な想いを抱えて、踏ん張って生きている人なのではないかと思っていたからだ。
そして、文章を読んでいて、1人の生身の女性、人間・大内 光子さんの姿を垣間見た思いがした。
彼女の無垢さ、愛した男の言ったことを信じ、それが叶うように努力し、応えるようとする様と、画家の自由奔放な生き方に伴う、苦悩や葛藤……。
山に降った雨が、渓谷を下るように、2人の過ごした時間も凄烈な水流と共に起伏に富んだものとなった。しかし、時と共に、その水の勢いはゆるやかになり、下流に流れつき、私たちはやっと、その穏やかな水面に映る言葉たちが残す記憶の断片を感じ取ることができるのだと思う。
時間は、感情を中和する力があるのだろう…。
ドラマティックと美化してしまうほど、生易しくはない物語…。
しかしながら、抑制のきいた文章のくだりに、時折、ピアノの旋律のようにこぼれ落ちる内なる詩情を感じずにはいられなかった。
「本当の優しさ」という章には、涙が溢れた…。
さまざな想いにさいなまれながらも1人の画家を育て、その男を見送った1人のパトロンでもある女性の告白だった。
中本さんが光子さんに送った葉書も散りばめられ、肉筆の走り書きが、なんとも当時の臨場感を感じさせ、生前の中本さんの人柄が偲ばれる。
中本さんと生前、共に展覧会を行っていたAUの今は亡き嶋本 昭三さん、一緒に製作などをしていた美術家の大場 順一さん、詩人の原田 勇男さん、現・中本誠司現代美術館 館長 今野 純市さんなど多くの関係者が随筆を寄せている。
特に印象に残ったのが、舞踏家でもあり、名アートディレクターでもあった小山 朱鷺子さんの気骨な文章。この本に一花、色を添えている。
そして、この本を企画したプロデューサーの竹野 博思さんの情熱を感じずにはいられなかった。
宿命の出会い。
作家を育てることは、相当の忍耐と愛情と資産が必要なことだ。
その人の才能を信じて疑わないこと。
叱咤激励し、
見捨てないこと。
画家は、乞食の三歩手前にいる。
しかし、同時に、神の領域にも存在しているのだ。
画家は、描き続けるしかない…。
人が、自分の想いを見える形にしておくことはとても大事な行為のように思う。
その人がいなくなっても、残るものだから。
その人がいなくなっても触れられるものだから。
私は、まだまだ努力が足りない…。
野人には、なれないとしても、自分の本能を生かす努力をしたいと深くそう思う。
そして、真の理解者に巡り逢いたいと切に願う。