My Horizon

絵を描く日々や私の日常をつれづれなるままに、言葉と写真で紡ぎます。

永遠の光

先月、大きな事が事が起こった。


そのうちの一つが3年間、暖めてきた展覧会の中止だった。

今は亡き同郷の作家の大先輩・オノショウイチさんを囲む展覧会『オノショウイチと仲間たち〜パリから仙台へ〜』

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オノさんは、若くしてパリに旅立ちアトリエ17という版画工房で修行を積んでいた。

同じ頃、山口県出身の画家・師井 公二さんもパリへ向かい、絵画の研鑽を積んでいた。
やがて、同じアトリエ17でオノさんと出会い、苦楽を共にし、お互いの作品を交換し合いながら交流を深めていた。


オノさんは、2007年、帰国後、宮城県仙台市にアトリエを構える。
そして2013年、仙台市にあるメディアテークの個展を計画していたものの天国へと旅立つ。計画されていた大規模な展覧会は流れ、ギャラリーSendai Artist Run Placeでの遺作展となってしまった。



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それから8年の時を経た2021年5月。
念願だったメディアテークでの大掛かりな個展が、有志によって執り行われた。


久々に目の当たりにする作品群。
自然光の利いた白い吹き抜けの空間に色彩がスパークするような閃光を放ちながら広い空間を静かに満たしていた。



奥に進んでゆくほどに旧作へと導くようなレイアウト。

円形や半円形のカタチを用いり、時間や空間の動きを独自の視点で捉えようとした試行錯誤の痕跡も生々しい。理知的で即興性にも富むドローイング群が臨場感を持って目の前で動き出し、その動きが止むことはない。ずっと観ていたいという想いに浸りながら、在りし日のその人の仕事に想いを馳せた。


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私とオノさんとの出会いは、2000年代に入ってから、地元・亘理の鳥の海温泉という施設に飾られていた一枚の版画を観たことから始まった。亘理町出身でパリやニューヨークで活動されている芸術家という説明が添えられていた。小さな田舎町からもこんな仕事をしている人がいるんだぁと思った覚えがあったが、名前までは覚えていなかった。

その後、2013年、オノさんが亡くなった年のオノさんの個展(遺作展)を観た。
その作品を初めて観た時の衝撃は、未だに忘れる事ができない。彼は、私にとっても特別な作家になった。以前、温泉に掛けられていた作品と同一人物の同郷の作家であることが判明し、驚嘆しながらもオノさんの奥さんとの交流も生まれた。


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2016年、私は、初めてパリを訪れ、グループ展を行った。
その際に来場していたパリ在住の画家・師井公二さんと知り合い、その後も交流を重ねていた。

師井さんから日本での展示の案内状が届きそこへ向かおうとした時、なんとなく手にしたオノショウイチさんのリーフレットの中の経歴と年表を見ていた。オノさんと師井さんの世代が近いこと、そして、パリに滞在していた時期が重なるのでは?とふと思い、ダメもとで一冊、このリーフレットを持って出掛けてみた。

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いざ、個展会場へ向かい、初めて師井さんの琳派をテーマにした作品を鑑賞した後、持ってきたリーフレットを見せるとオノさんのことを知っている事が判明。同じ版画工房アトリエ17で共に版画制作に励んでいたというではないか!素敵な偶然に嬉しくなり話が弾んだ。

それから数年後、仙台を訪れた師井さんと何か展覧会ができれがという話になり、”パリと仙台”というテーマで、オノショウイチさんへのトリビュートの意味合いも兼ねた展示を2020年5月に行う予定を立てた。

その後、パリ、東京、宮城と連絡し合いながらフライヤーの制作に入った。オノさんのパリ時代の友人お二人のさりげない想いが詰まったテキストも用意され、師井さんと私もオノさんへの短いテキストを書いた。経歴や写真などのレイアウトが決まり原稿がOKになりいざ印刷へという昨年3月、新型コロナウィルスの影響が広がり始め、展覧会は延期になり、2022年5月へと会期が伸びた。


(延期を決めた頃の心境↓)
noriko-takahashi.hatenablog.com




その後、いろいろと諸事情が重なり、連絡を取り合う中、悩んだ末に中止を決めた。


萎える心を抑えながら方々に手紙やメールを書き、中止の伝達をし終え展覧会に関わることは完了した。
 

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8年越しで開催されたメディアテークでの展覧会。

オノさんの世界観が絵画の光によって解き放たれ、その色彩の周波数は永遠の彼方までこだましているかのようだった。


「オノさんはもうこの世にはいませんが、オノさんの生まれ故郷で絵を描いている私を空の上から見つけてくれたのかもしれません。そして、パリという異国の地で同じ版画工房で共に制作していた師井さんに会わせてくれたのもオノさんだったかもしれません…。」

(『オノショウチイと仲間たち〜パリから仙台へ〜』フライヤーより。text・髙橋 典子)