一年前、展示の打ち合わせのために、初めてホテルに辿り着いた時、まだ、待ち合わせには時間があった。
少し、ホテルの周りを歩いているとホテルの裏側に神社があるのを見つけた。
鳥居をくぐり、お願いではなく、この土地に入らせてくださいと挨拶しに行った。
デニウス・ロキ。
ラテン語で地霊をさす言葉。
土地には、そこに住む神様みたいなものが"居る"と思う。
神社はまさに古来からある土地神様がいるような場所だとも思う。
旅した先の土地にすごく惹かれることもそのデニウス・ロキに気にいられたことを示すのだと本で読んだことがある。
そんな想いがあったので、新参者である私は、鳥居をくぐり、念入りに手を合わせ挨拶をした。
そして、平成最後の日。
雨の日の搬入。
電車の移動を終えて、徒歩で目的地に向かった。
やんでいた雨がぽつぽつと降り始めたが、両サイドに荷物を持っていた私は、傘をささずに移動していた。
急な坂をスーツケースを押しながら登っていく間に、雨足が速くなり始めた。
ちょっと道がわからなくなって、勘で登った坂の先に教会があって、その奥に鳥居が見えた。
鳥居が見えれば、この裏がホテルだと思った私は、ちょっとホッとした。
雨が降っているけど、やっぱり、お参りに行こうと思い、荷物を鳥居の外に置き、鳥居をくぐって手を合わせた。
神社の周りをカッパを着た人が箒で周囲を掃除していたので、軽く会釈をした。
なんて奇特な人なんだろうと思いながら・・・。
次の日も、在廊前に、無事に初日を迎えられたことを伝えようと神社の鳥居をくぐると、昨日、雨の中、掃除していた人が鮮やかな空色の神主の衣をまとい日課を始めるところだった。
神主さんだったんだ・・・。
また、会釈をし合い、手を合わせ、お礼を伝えた。
在廊した二日間は、いつも観に来てくれる常連さんや顔なじみの作家友達や先輩方が連日いらしてくださった。そのおかげで楽しいひと時を過ごすことができた。
在廊時間も終わり、傘をさして、少しだけ猫のように"勘"だけで路地を歩いてみることにした。
神楽坂という場所は、空爆の被害も免れた土地だと言う。
昔ながらの建物や風情がまだ、残っているところもある。
入り組んだ路地を抜け、行き止まりにあいながらも、路地の風景が、現代風になったり、パリの下町風になったり、純和風になってみたりと、いろんな要素が混ざり合って、興味深い面白みを醸し出していた。
そこでひとつだけ、見つけられたらいいなぁと思っていた場所があった。
とある旅館。
芥川 龍之介が篭って原稿を書いていたという名旅館「和可菜」。
コッソリ、外人さんたちのグループに付いて行ったら、運よく辿り着くことができた。
ホテルの担当者の方が言っていたが、去年まで営業していたとのこと・・・・。
ん~、残念。
宿泊先は、若いスタッフで、ゆる〜〜い感じに接客してくれるユースホステル風の所だった。
相変わらず穴の中に潜るような一畳ぐらいのベットスペースのみ。ベニア板の新しさもそのままに、簡素なものだったけれどこれはこれで、充分だった。
いろんな顔を見せるこの街の賑やかさと落ち着きとが、妙にしっくりくる感じがした。
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