昔、そこに入るのがちょっと怖かった。
お母さんのスカートのすそをつかんで、おそるおそる入っていくような感じ。
そこは薄暗く、小さな体にはとても大きい人工の洞窟のように思えた。
静かな館内にブルーの世界があふれ、その中にゆったりと泳ぐ魚たちを見ていた記憶がある。
海星を指でつついたり、あしかのショーに海水の匂いと生き物の臭いにむせびそうになった記憶もある。
大人になってからも水族館へゆく時、かなり時間をかけて見て回った。見るというよりガラス越しに海の生物と対話するかのような気持ちでいたので、なかなか先へ進めない感じだったので、よく一緒に行った人を困らせていた。
昔、ラジオで漫画家の内田 春菊が大の水族館好きで、そのことについて、一人でずっと話していた番組を聴いたことがある。
その中でも、水族館に泊まったことがあるという話を今も思い出す。
それはとても新鮮な体験だったとか。
夏休みに子供たちが水族館にお泊りするイベントがあってテレビで放映されているのを見て、うらやましく思っていた。
今だにしたいことのひとつが、水族館に泊まることなのだ。
さぞかし気持ちよく、眠ることができるか・・・。
はたまた、気が立って、眠れないか・・・。
浅い眠りから、目覚めた時、目の前にスナメリがいたら・・・、マンボウがいたら・・・、なんて素敵なんだろう・・・。
考えただけで、ワクワクする。
とある理由で初めて、うみの杜水族館へ行った。
新しい水族館は、巨大な水槽やイルカのショー、いろんな種類のペンギンたちも見られるのだが・・・。
館内を20分で見てしまい・・・、あれ?っと引き返した。
なんでだろう・・・?と思っていたら、
妙に明るいのだ・・・。
開放的で、どうも落ち着かない。
動物園に近い感覚・・・。
あの薄暗さは、なくなってしまったのだった・・・。
水族館にも陰翳礼讃を求める私が時代錯誤なのだろうか・・・。
明るく、わかりやすくという風潮なのだろうか…。
ドラえもんともタイアップなどの企画もあり、水槽の中にドラえもんがいたりして、気が散ってしまった。
純粋に生き物を見させてほしい。
あの薄暗い中で・・・。
大好きなイルカたちを見ているのに、妙に悲しい気分になった。
私の中の水族館の記憶は松島水族館から始まっていたのだな・・・。
白くてあまり大きくはない水族館だったけれど、あのコンパクトな感じも好きだった。
原体験に近い水族館とまた、どこかでめぐり会いたい。
そして、いつか薄暗い水族館にお泊りできる日が来るといいなぁ・・・。