My Horizon

絵を描く日々や私の日常をつれづれなるままに、言葉と写真で紡ぎます。

2020.アーカイブ❶/ 私と富士山

20代の始めの頃だろうか大阪までの新幹線に乗っていた時のこと。

周囲の乗客たちが少しざわついた。
『あれ、今、見えたわよ!』
『えっ?本当だ!』

その声たちが向かっている窓越しに目をやると、小さく白い頂が見える。
生まれて初めて肉眼で見る富士山。

正直なところ、私はちょっと怖いと思った。
遥か遠くに有るのに、
ここからは小さくしか見えないのに、
やけに神々しく感じた。


当時の私は、周りの人たちがなぜ富士山と騒ぐのか、あまり理解できなかった。
確かに日本一高い山ではあるけれど、みんなが騒ぎすぎると思い、そんな情景をどこか斜めから見てたのだと思う。

でも、確かに他の山とは違う存在感だという認識はできた。

なんだか近寄りがたいから、私は、この小ささで見つめるだけで十分だと思い、その近くへは恐れ多くて、近づこうなどとは全く思わなかった。




それから数十年が過ぎ、3年前に友達のところへ遊びに行った時、高速バスが神奈川県の海老名市へ向かう途中、窓越しに、突然、にゅうっと白い角ばった頂が目に飛び込んできた。スッと消えては、また、顔を出し、また消えてを繰り返し、カメラを構えた瞬間、もうそれは二度と姿を現してはくれなかった。それは、何十年振りかの富士山との遭遇だった。

意外と近くに見えて、
やっぱり神々しくて、ちょっと萎縮してしまう自分がいた。
やっぱ、怖い・・・。


そして、一昨年くらいから、読む本、読む本に富士山が出てくるようになった。
けれど、ヘェ〜、そうなんだぁと読みながら思うくらいにやり過ごしていた。

今年の9月に、鎌倉へ滞在した時に、友達からあるYouTubeの動画が送られてきた。
富士山に関する、いわゆる”都市伝説”系の動画だった。

世界地図を合わせると日本地図になるとか、
世界の雛形は、日本にあるとか、
日本で起こった事は、その後、世界でも起こる事だとか、
よくある都市伝説でもあるが、読んでいると検証してみても面白そうだと思うようになっていた。



今年、大きな節目を迎えて、一つの区切りとして、自分の禊として、富士山へ行くのも良いかもしれないとなんとなく思い始めていた。そして、新たな出発をしようと考え始めていた。



このご時世であっても、五合目までは行けるバスが走っていることを確認して、早朝の江ノ電に乗って、富士山へ向かうことに。

河口湖駅行きの高速バスは、富士急ハイランドへ行く若者たちでほとんど満員に近い状態だった。


遠く遥かに富士山が見え始め、思わずシャッターをきった。
今から、あそこへ行くのか、ちょっと信じられないと思いながら、バスは目的地の河口湖駅へ着々と進んでいった。


近づく富士山。

そのあまりの迫力に位負けしながらも、バスを降り、すぐさま五合目行きのバスに乗り換えることに。河口湖駅から望むその姿も、雄大なものだった。


ゆっくりとなだらかな曲線を辿りつつ、自分が今、神々しくて近付けなかった富士山の裾野からその御神体へと入っていっているのだと思うと言葉にならず、”えぇ〜〜!”とか”はぁ〜〜!”という感嘆の声を漏らさずいられなかった。その声は幸い、バスのエンジン音によってかき消されていった。

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五合目にバスが到着して、まずは向かったのが富士山大社・小御嶽神社へご挨拶。
御朱印帳というものをここから始めてみようと思い、買い求め、小さな縁起を担ぐことにした。



お昼も過ぎて入ったレストランはガラガラ。
富士山が見える席に座って、山梨県ソウルフードホウトウを頼んだ。
山梨に親戚がいるのでホウトウも好物の一つだったので、すぐさま平らげる。
食べ終わってボ〜〜と富士山を眺めていると龍雲のようなものがいくつも流れ去って行った。




溶岩が砕けた黒く、時々、赤い石の混じるゴロゴロとした道を歩く。
平坦な道なのに、足元が悪い、なんて歩きづらい道なんだ!この山を登るなんて、相当、キツイだろうにと頂を仰いだ。


それでも足を留める場所がいくつもあった。


私が一番惹かれたのが、巨大なアザミだった。
ジャンボサイズの超・ワイルド系とでも言いたいほどのインパクト。強烈なピンクの花もさることながら、トゲのたくさんついた葉の形の美しさとその成り立ちに目を奪われてしまった。思わずスケッチ。座って描いていると珍しい鳥の鳴き声がしたり、風が吹いたり、人が後ろを通ったりしたが、気にせず描いた。
富士山を管理している関係者のおじさんが見回りをしていたのか『おぉ、珍しいスケッチですかぁ』と声を掛けてきた。『このアザミは、”富士アザミ”と言って、天皇陛下が名付けた名前なんですよ。』と説明してくれた。

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寒くなってきたので、立ち上がり、歩いているとショートパンツにランニング姿の男性を見かけ、ちょっとドン引きしたが、その男性が近づいて来て、写真を撮ってくれと言ってきた。
『寒くないんですか?』と思わず開口一番にその言葉が出てしまった。
『毎年、この時期ここを走っているんだよ!』と満面の笑みで答えが返ってきた。
お互いに西湖や河口湖が見える場所で同じポーズを決めての撮影会になった。
そして、彼は、笑顔を浮かべ、また、走りながら道の先へと消えていった。
世の中には、いろんな人がいるもんだ。

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