My Horizon

絵を描く日々や私の日常をつれづれなるままに、言葉と写真で紡ぎます。

悲しみよ、こんにちは

15、16歳っていうと少し背伸びをして、大人の世界をいろんな方向から、覗き込んでみたくなる時期。

私の場合、
映画の世界、
本の世界、
音楽の世界と・・・、
四方八方から覗き込んでいた。


今より情報が溢れていなかった分、様々な雑誌を覗き込み、辞典を調べ、探し歩いていた。
くんくん嗅ぎ分けて、自分の好きそうな物を探して回った。



どこか遠くの国の匂い、
煙草の匂い、
お酒の匂い、
男女の匂い、
得体の知らない大人の匂いに憧れていたのかもしれない。


好きなものを見つけると、読みふけり、繰り返し見聞きして、没頭….。

自分が求めているイメージとどこか重なるものを感じ取っていた。

それらの擬似的な体験は、次第に自分に染み込んでゆき、よく馴染み、使い古した毛布に顔を埋めるようにその匂いを嗅ぎまくるような、そんな愛着をいつの間にか抱いてしまっていた。

ジュリエット・グレコ

初めて彼女の声を聴いたのは中学生の頃。
夕方に聴いていたNHKのFMからその声は流れてきた。
フランスの音楽特集でシャンソンからフレンチポップまで新旧の曲が掛かっていた。



芯があって凛としたちょっと太く低い声。
独特の存在感を持った人だと声を聴いた時にそう直感した。


その後、その姿を見たのは雑誌の中だった。

黒ずくめの出立。
黒い髪に黒いアイライン。
身振り手振りを交えながら、歌い上げる。
一曲が一編の物語のように
本当に黒がよく似合う人だった。
私が思い描いていた大人の女だった。


ジュリエット・グレコが亡くなったと昨日、ラジオのニュースで知った。

グレコは、エディット・ピアフに次ぐようなフランスの偉大なる歌手。


93歳、大往生だった。




『悲しみよ こんにちは』は、小説家フランソワーズ・サガンのデビュー作の題名。
この小説がヒットして映画化された時に、ダンスホールグレコが歌うシーンがある。


刹那的な恋に揺れる若者の心情をクールに歌い上げるグレコの存在感は、ずば抜けた存在感を放っていた。

『悲しみよ こんにちは』
https://youtu.be/ruDOmCTMLgw



そんなクールな彼女を見染めたMr.Coolがいた。

トランペット奏者のマイルス・デイヴィスだ。



どこかで見たドキュメントでうる覚えだが、パリで出会った二人はすぐに恋に落ちた。

グレコは、それまで同性愛であることを公にしていた。

でも、彼女に取っては、人間を愛しているという感覚しかなかったのでないだろうか。
形にとらわれないパリの自由人。

https://youtu.be/AVJXSxswYZs
(イラストの動画が、なんとも洒落ている!)


意気投合した二人は、逢瀬を重ね、パリとアメリカを行き来しながら長い間、交際していた。


マイルスが『枯葉』を弾くようになったのは、グレコのを想ってのことだったのだろう。
グレコが歌う『枯葉』は名曲中の名曲だからそんな彼女の持ち歌を好んで弾いていた。そんなエピソードにマイルスの深い愛情を感じる。


たぶんフランスでは国葬になってもよいのではないだろうか?
それだけの価値がある国民的歌手だと思う。



Repose en paix.

『枯葉』
https://youtu.be/n9Sfx3c7fR0



〜〜ちょい余談〜〜

『悲しみよ こんにちは』は、私の十代の愛読書だった。
フランソワーズ・サガンに10代後半はどっぷりハマっていた。

この作品の映画に出ているジーン・バーグも可愛いんだけどちょっとワルな感じがとっても好きで、何度か彼女のショートヘア”セシル・カット”を真似してベリーショートにしていた時期がある。
美容室で欧米人と日本人の髪質が違うと言われ、それでもできるだけ短くして欲しいとお願いした記憶もある。

この映画から3年後、彼女はジャン・リュック・ゴダール監督の永遠の名作『勝手にしやがれ!』に出演して、伝説的な存在へと変貌を遂げるが、40歳の若さで謎の死を遂げた。しかし、彼女は、今もなお愛され続けるファッション・アイコンとして生き続けている。

映画『勝手にしやがれ!』の最後に「Pourquoi?(なぜ?)」と彼女が唇を親指でなぞりながら呟く姿は、『悲しいよ こんにちは』の彼女の演じたセシルの3年後であるようにも思える。


アメリカなまりのフランス語が可愛かったなぁ…。
"美人薄命"という言葉をつい思い出してしまう。

https://youtu.be/AI1ORhku0vw